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「ハーン・ザ・ラストハンター」書評

書評と書きましたが、個々の作品に関する感想ではありません。

 

「ハーン・ザ・ラストハンター」

www.chikumashobo.co.jp

ニンジャスレイヤーの原作者の一人ブラッドレー・ボンド(比較的マトモなほう)が、アメリカのオタクたちが出した同人誌の中から、日本をテーマにしたものを翻訳チームがピックアップしたもの。

妖怪!センパイ!そして豆腐!盛り沢山な短編集で、どの話も面白かったのですが、この本が珠玉の一冊となっているのは、むしろその作品の出来以上に魅力的な部分があるからだと思っています。

 

前提

そもそも忘れがちなのだが、「ニンジャスレイヤー」という作品は、ダイハードテイルズというクリエイターユニットの翻訳作品の一つである。

www.diehardtales.com

ストームダンサーについては触れませんが、これはこれでめちゃ面白い作品です。がしかしストームダンサー翻訳が発表されたとき、「まぁそう言いつつまた原著は不明なんだろう」と思ったら、マジで普通に存在しているので、ヘッズからは「翻訳チームが翻訳の仕事をした」という騒ぎになりました。

 

余談ですがニンジャスレイヤーは本編の他に

・与太話(エイプリルフールでの一発ネタやリレー小説を不定期に流す)

ninjaheads.hatenablog.jp

・翻訳者の書いた小説(「ペイルホース死す!」「灰都ロヅメイグの夜」など重厚なストーリーが多い)

www.diehardtales.com

・読者と本編を繋ぐキャラクターの日記めいたもの(主に@the_v_njslyrアカウントで行われる)

が存在します。

 

作者

ニンジャスレイヤーはブラッドレー・モンドとフィリップ・N・モーゼズがアメリカで出した小説であり、それを発見した本兌有と杉ライカが翻訳した、ということになっています。

こう書くと原作者否定派に思われるかもしれませんが、私は原作者実在派です。

ハーン・ザ・ラストハンターにおいても同様に、作者が存在しています。

 

ハーン・ザ・ラストハンター:トレヴォー・S・マイルズ(プロフィール不詳、ただし同人誌のあとがきで知ることはできる)

エミリー・ウィズ・アイアンドレス〜センパイポカリプス・ナウ!〜:エミリー・R・スミス(プロフィール不詳)

阿弥陀6:スティーヴン・ヘインズワース(カナダ在住の教師、ヴィーガン思想)

流鏑馬な!海原ダンク!:アジッコ・デイヴィス(本名不詳、日本アニメオタク、ペンネームも「ミスター味っ子」からか?)

ジゴク・プリフェクチュア:ブルース・J・ウォレス(ニュージャージー在住の44歳)

隅田川オレンジライト:デイヴィット・グリーン(ロサンゼルス在住、日本の飲み会オタク)

ようこそ、ウィルヘルム!:マイケル・スヴェンソン(30代のゲームオタク)

 

解説

この本においては濃厚な作品の後に作者の来歴、キャラクター設定、それらに関する翻訳者のコメントがつけられています。

これが本当に、実に面白い。

作品を読んで「あぁ面白かった、ハーンはかっこいい」と思うだけでなく、作者のキャラクター、それについての解説まで見られるわけですから、いわば二重構造になっています。

どういう人が書いたものなのか、作中に出てくるこのキャラクターはどういうふうに生み出されたものなのか、いまだ訳されていないキャラクターの設定から続編を推測するなど。

これは一般の小説では中々ないことだと思います。作者自身が「これはこの作品に影響を受けた」とか「この作品は27話だけど、後に出てくるキャラクターの設定を公開します」とかはやりません。やるのはアマチュアの同人誌だからです。

荒削りで、どこか未完成な部分も多かったり、作品としては短かったりするけれど、作者の魅力を語られたがために、「もっと見たい」と思わせてくるのです。

翻訳で作品の良さを提供し、解説で作者をも好きにさせようとする。これは結構な愛情と手間がないと難しいことだよなと思います。

これ、仮に原作者が居ないとしても、手法としてはとても強いです。「自分を好きになれ」というのは難しくても、「この人を好きになって」とプレゼンするのは比較的楽で、またそういうプレゼンを楽しむ層が居るからです。

 

「訳されていない設定から本編を推察する」というのは、わりと存在する手法だと思います。私個人としては「護法少女ソワカちゃん」が一番好きです(余談ですがこれもカットアップ方式でした)。

作中作をつくり、作者の設定をチラリと見せる……ホームズとかがそれにあたるのかもしれませんが、これは翻訳という形式上、作者へのリスペクトが強くあり、そこに一風変わった「推し」の文化が混じり合っている気がします。

だからこそ私は作者実在説をとりたいのです。エミリー・R・スミス、推しです!!